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Inabeな人々|木こり 田端昇さん(田端ファミリー前編)

いなべの森にまたひとつ、あたたかな暮らしの灯火がともされた。 森を切り開き、そこに流れる風や水、...

14
October
2020
投稿者:事務局

いなべの森にまたひとつ、あたたかな暮らしの灯火がともされた。

森を切り開き、そこに流れる風や水、木々の効能や土の中までを考察しながら、まずは20年、そして50年…100年後までの暮らしのビジョンを持ち、自然と共に日々を育む家族のお話し。

田端昇さん1

この地と出会い、自分たちの「暮らし」をデザインするまで

4人の子を持つ父であり、木こりの田端昇さんは、いなべで林業の仕事について15年目になる。

大阪で生まれ育ち、学生時代には音楽やファッションに興味を持っていた昇さん。

当時、全国各地で開催されていた野外イベントや、音楽フェスに定期的に足を運び、それらイベントのごみ収集作業などにも携わる中で、さまざまな環境活動に強く関心を持つようになる。

そこから、昇さんの今の「暮らし」につながる旅がスタートする。

田端昇さん2

外の世界を知れば知るほど、関心ある物事の見聞を広げ、自身の生業についても考えたいと思った昇さんは、ある野外イベントがきっかけで、日本全土を巡る旅に出ることを決意。

まずは、北海道で1年間。農業や酪農業を経験する中で、現代における「自然」と向き合う暮らし方について、疑問を持つようになる。

北から下る道中で、疑問を解消していくかのように、有機農家との出会いがあり、そして東京で参加したオーガニック料理の教室で、当時亀山市にあった「月の庭」というオーガニックレストランのオーナー 岡田桂織さんと出会う。

経済優先の産業がもたらす環境破壊についてや、農業における環境負荷も考慮した料理など…岡田さんの考え方に刺激を受け、昇さんの旅は一旦終了。

亀山市への移住を決め、「月の庭」で働くことに。

数年後、お客さまに提供する料理の素材たちに日々触れる中で、やはり素材を生み出す自然に身を置く仕事がしたい…。そう思い立つと同時に、結婚に出産と人生の転機も重なり、新たなる生業を探すことに。

すると、これもタイミング。当時、国が新規就労支援事業として、力を入れていた林業に出会い、現在の職場があるいなべ市で勤めることとなる。

田端昇さん3

その後、10年ほどは亀山に住居を構えていたため、車で往復約2時間掛けて、いなべ まで通う日々。

子どもの進級のタイミングもあり、暮らしの拠点をそろそろ定めたい…そう、考えていた時だった。

ふと、元々友人であったいなべの有機農家「ゆうき農園」の森友喜さんから、数年前、私有林の活用方法で相談を受けていたことを思い出す。

これも何かのご縁…。昇さんは、思い切っていなべで、その森と共に暮らし、整備を進めようと決意する。

これら全ての出来事が一本の道となり、昇さんをこの地に招き寄せた。

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これまでずっと考えて来た、環境や⾃然のこと、「⾃然と⼈との関係性」。

どう、互いに”いかし”合うのか。

⾃分たちが住むことで、その場所が痛んでしまうのではなく、よりその場所が豊になる暮らし⽅を⾒つけたい…。

そこで昇さんは、住まいを拠点に、⽔、⼟、気候、植物、景観、そのつながりを考え、パーマカルチャーの⼿法にのっとった暮らしをスタートさせる。

田端昇さん4

まずは、家族との⼤切な住まい。

2015年6⽉頃から森を切り拓き、その⼟地に⼈の⼿で植えられてきた⽊々を昇さんが伐採。

製材所へ運び、約4年掛けて、⽊組みの家を信頼できる⼤⼯さんに建ててもらったという。

なんと、その⽊材⾃給率は50%ほど。

⽊造建築の伝統⼯法「板倉⼯法」を⽤いており、柱や梁、壁と全て⽊材のみで構築。

保温性や通気性、保湿性を保つのに適しており、⾃然素材の使⽤が増えることもこの⼯法の利点である。

⽞関から抜けたところにある台所は⼟間になっていて夏はひんやりと、冬は薪ストーブのお陰で家中が暖かい。

住まう⼟地で⻑年育まれた⽊の歴史と、その温もりに触れながら、⾃然の恩恵を体感できる住まい。

4年という年⽉を掛け、⼈の⼿で丁寧に完成に⾄ったところもまた愛しく、感慨深い。

田端昇さん5

いなべに家族で移住し5年。

「改めて、この⼟地と⼀緒に育っていきたい」と話す昇さん。

敷地整備をはじめ、佳織さんのお店の建築(後編で紹介)、フォレストガーデンや庭、鶏⼩屋に薪⼩屋、作業⼩屋づくりなど…この場所で「⾃然と⼈の可能性を開く場づくり」を⽬指し、家族と共に協⼒し合いながら、多忙な⽇々を送る。

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⾃然と⼈との関係、その可能性を考える⽇々

⾃然と共に育む暮らしを設計するためには、⾝の回りの⾃然界について学び、考察し、⾏動に移すことのできる、”知恵と技術”を⾝に付けることが必要である。

⾜元に⽣えている⼩さな植物は、⼤地にとって重要な役割を担っていたりする。

⽊を切り倒し、材として⽣産するには、もちろん技術が必要だ。

そして、何よりそこに⼿を掛ける”時間”を要する。

昇さんは、時間を⾒つけては、暮らしにつながるさまざまな年代の本を読み込んだり、県外にパーマカルチャーの勉強に出向くなど、⾃⾝の知恵となるよう⽇々学び続けている。

「まずは⾃分たちの暮らしの中で、⾃然と⼈の関係性を考えてみたい」と話す。

田端昇さん7

(写真上)敷地にどんな⽊々の苗を植えるのか、住まう「家」を軸としてどこに何を配置するのかなど、循環させた暮らしを考え、昇さんがデザインした図⾯。

⼦どもたちの視野を更に広げるためにも、森で遊び、森から学ぶ

昇さんは、近くにある保育園の野外保育のフィールド整備にも参加する中で、伐採した⽊は「不要なもの」ではなく、⾃分たちの暮らしに役⽴ち「利⽤できるもの」であること、「森や⽥畑に還すもの」といったように、「⽊々の循環した仕組みづくり」を考案したいという。

田端昇さん8 田端昇さん11

例えば、⼦どもたちと⼀緒に、整備で伐採した⽊を薪にして⽕を起こし、焼き芋を楽しむ。

かまどを利⽤してご飯を炊くなど…野外保育を通じて、⼦どもたちに「森と⼈の暮らしのつながり」を、まずは体験して欲しいと昇さんは話す。

そして、そういったことに馴染みのない⼤⼈がいたら、積極的に野外保育の現場を⾒て欲しいという。

⼦どもが遊ぶ環境とは、どんな場所なのか。⾃然とどう遊んだら良いのか。

本を開くだけでは学ぶことのできない⾃然を通じた体験が、⽣きる術となり、⼈と成り、想像⼒をも更に豊に育て、磨いてくれるのではないだろうか。

こんな世情だからこそ、親⼦揃って五感で⾃然をいっぱいに感じて、⾃然溢れるいなべだからこそできる「遊び⽅」を⼦どもと共に学んでみて欲しい。

田端昇さん12

⼦どもたちの視点を「今」から「未来」に変える森林の可能性

この先、いなべの「森」と「⼈」との関係性が更に良くなるように。

幼い頃から、⽣まれ育った⼟地、暮らしている⼟地との接点を少しでも増やすこと。

「そうすることで、地域環境や地域経済、エネルギー問題などに興味を持つことにつながると思う。いかに⾃他共に健やかに⽣きられる社会をつくるか。そう、考えることにつながると信じて…専⾨職としてやれることはやっていきたい」と昇さんは話す。

⼦どもたちと⼀緒にやれることはどんなことなのか。

今後いなべで、その⼟地に根ざした仕事と暮らしを考えていくために、昇さんのような取り組みに⽬を向けることや、発想の転換ひとつで、⼤きく変わっていくように思う。

そして何より、「この地で⻑く暮らし、この地と向き合っていきたい」、そう思う⼦どもたちが増え、この地で⽣きていく術を考え、⾃らの「⽣業」を導き出せる⼦どもが、この先少しでも増えることを願う。

田端昇さん13

⼟地のニーズを考え、これからの世代へと受け継いでいくべき地域資源を今の⼤⼈たちが考える

現代において、⾃分の住むまちの⾃然や環境について関⼼を持ち、⾃主的に学び、何かしらの⾏動を起こそうとする⼤⼈は⼀握りのように思う。

例えば、⼭という地域資源について。

時代と共に「⼭=お⾦(資産)」になり、ただ持っているだけ、どのように活⽤して良いのか分からない…という世代が増えているのは事実である。

環境や災害のことを考えると、昔のように定期的に⼭に⼊り整備し、⽊々の効⽤を考えていた暮らしがやはり理想ではある…だが、現在となっては難しい⼀⾯の⽅が⼤きい。

⼭々と隣り合わせのまち、いなべだからこそ、このような課題を抱えながら暮らす⼈々は多いのではないだろうか。

田端昇さん14

前述したように、⾃然と共に育む暮らしをつくっていくためには知恵と技術、そして何より時間が掛かる。

そのような中、昇さんはこう話す。

「時間が掛かる事だから、⼩さなことから少しずつ始めるといいと思う。⾃然には、さまざまな⼈たちがどのような切り⼝でも関われる。暮らしで⼭に⼊る仲間をもっと増やしていきたい。全ては、⾃分たちが暮らす⾃然に囲まれたこのまちを、より良くしたい」と。

このまちには、可能性を秘めたたくさんの⾃然や資源がたくさんある。

視点を変えれば、⾃然への関わり⽅や、出来ることはもっとあるのかもしれない。

地域の⼤切な資源として、私たち⼤⼈が⾒つめ直し、磨き、このまちをもっと輝かせられるように。少し⽬線を上に、視野を広く「未来」に向けて。

昇さんのように、数⼗年後のビジョンを持ち、この地でずっと暮らす⾵景を思い描きながら、改めて「今」私たちに出来ることを、もう⼀度考えてみてはどうだろうか。

田端昇さん15

【Credit】

〈取材撮影ご協⼒〉

 ⽊こり ⽥端昇さん

〈撮影〉

 ウラタタカヒデ(鈴麓寫眞)

〈インタビュア・テキスト〉

 グリーンクリエイティブいなべ 荒⽊愛美

 取材:2020年2月