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Inabeな人々|貨物鉄道博物館 南野哲志さん

いなべといえば⻩⾊い電⾞。⽥舎町に映えるかわいらしい客⾞は、このまちを代表するシンボルの1つだ。...

15
June
2021
投稿者:事務局

いなべといえば⻩⾊い電⾞。⽥舎町に映えるかわいらしい客⾞は、このまちを代表するシンボルの1つだ。

宇賀川橋梁を渡る101 系電⾞

⼀⽅で、貨物列⾞の存在も忘れてはならない。さまざまな背景はあれど、このまちの経済発展に寄与してきた鉄道である。

セメント鉱⼭の藤原岳をバックに⾛るED5081形重連牽引のセメント列⾞

1927 年(昭和2 年)、鈴⿅⼭脈の北端にある藤原岳が、セメントの原料である⽯灰⽯で出来ていることに⽬を付けた2つの会社が、採掘したセメントを、富⽥や四⽇市、関ヶ原(岐⾩県)に運ぶため、鉄道建設を計画した。

結果、競合する2社の敷設は⼀本化され、1928年(昭和3 年)に三重県と岐⾩県を結ぶ鉄道として「三岐鉄道株式会社」を設⽴。

翌年から建設⼯事が開始され、1931 年(昭和6年)の7 ⽉23 ⽇に営業運転が開始された。

三岐鉄道株式會社 富⽥東藤原間開通記念繪端書「多志⽥拱橋」 所蔵:南野哲志

開業当初より貨物営業と旅客営業の両⽴を担ってきた三岐鉄道。

現在、セメント輸送を⾏う鉄道は国内唯⼀である。

三岐鉄道 三岐線 丹⽣川駅に隣接する「貨物鉄道博物館」は、三岐鉄道利⽤者や地域のボランティア活動団体により、地域社会における鉄道事業の活性化を⽬的とし開館された。

開館時の2003 年(平成15 年)は、⽇本における鉄道による貨物輸送が、1873 年(明治6 年)に始まって以来、130 周年⽬だったこともあり、世界で初めての貨物鉄道を専⾨とする博物館として、記念の意も込められている。

当時の三岐鉄道は、セメント以外にも、地域の農産品などを貨⾞に乗せ、各地へ運搬する⼩⼝輸送も⾏っていた。

その出荷場として使⽤されていた倉庫が、丹⽣川駅の横に唯⼀残っていたこともあり、その場所を再活⽤する形で、貨物鉄道博物館を創り上げたという。

貨物鉄道博物館内

貨物鉄道博物館の主要な展⽰物であるさまざまな種類の実物貨⾞は、全国の鉄道事業者や企業・個⼈からの寄贈や貸与によるもので、現存する最古級の貴重な⾞輌が勢揃いする。

博物館の⽴ち上げ時から携わる南野哲志さんは、運営を担うNPO法⼈ 貨物鉄道博物館で、現在、常務理事を務める。

本業である建築の設計や建設模型を製作する傍ら、三岐鉄道に関わるさまざまな歴史を紐解き、鉄道⽂化を後世に伝えていくための使命を背負い⽇々活動する。

撮影:2019 年1⽉開館時

毎⽉1 回の開館⽇には、親⼦連れをはじめ、鉄道ファンがこの⽇を⼼待ちに、各所より集う。

南野さんをはじめとする運営チームと共に、ボランティアスタッフによる貨⾞の修繕作業が⾏われる他、展⽰⾞輌のライトが点灯されたり、運転席に乗⾞出来るなど、当時のいきいきとした鉄道の表情を垣間⾒ることが出来る。

東武鉄道B4形39号蒸気機関⾞(撮影:2017 年11⽉開館時)
明治時代末期製の⽊造有蓋⾞ワ1形5490号(撮影:2017 年11 ⽉開館時)
変圧器輸送⽤の⼤物⾞シキ160 形160 号(撮影:2019年5⽉開館時)
変圧器輸送⽤の⼤物⾞シキ160 形160 号⾞体塗装の下地処理作業の様⼦。(2020 年12 ⽉開館⽇)
変圧器輸送⽤の⼤物⾞シキ160 形160 号⾞体塗装の下地処理作業の様⼦。(2020 年12 ⽉開館⽇)

南野さんと三岐鉄道の出会いは、必然であった。

⽗親が三岐鉄道の⾞輌整備⼠だったこともあり、⾃然と鉄道好きの少年に育った南野さん。やがて、沿線の学校へ通い、教室から⾒える三岐鉄道の列⾞に魅せられていく。

ある時、「三岐鉄道の全⾞輌を模型化しよう!」と、思い⽴ち、⾞輌研究に打ち込むように。

模型製作は現在、現存⾞はじめ過去⾞合わせ、なんと100輌を超える程。

南野さんの「得意」とすることで縁がつながり、今では、三岐鉄道をはじめ、鉄道⽂化を⽀えるひとりである。

20年前、三岐鉄道70周年記念で制作。
三岐鉄道開業時に導⼊された、蒸気機関⾞E102+貨⾞ワ1 とガソリンカーキハ1(三岐鉄道N ゲージ模型)。
上記作品は、鉄道模型専⾨誌、機芸出版社「鉄道模型趣味」692 号(2002 年1⽉刊)でも掲載。
蒸気機関⾞E102製作中

南野さんの⾞輌研究は、例えるならば組み⽴てられたものをひとつひとつ丁寧に分解していく作業でもある。

⾞輌の細かな全てのパーツを分析し、どこでどのように製造されたものなのか、どんな材で出来ているのかなど、ネジ1つのつくりや、繋ぎ⽬さえまでも、その背景を紐解いていく。

貨⾞のとある部品は、イギリスをはじめヨーロッパを中⼼に世界各国でつくられて来たということや、センチではなくインチを⽤いた計測⽅法であるなど、南野さんが初めて解明したことは、数多くあるという。

上記貨⾞の多くには、強度の理由で松の⽊が使⽤されていた。これらの塗装も、より当時の姿に近い形で復元されている。
書かれている⽂字も、貨⾞が⾛っていた時代のフォントを使⽤。
このネジと同等の形のものは、現存しないことから、本業の建築関連の業者に依頼し、復元してもらったとのこと。

⽇本の歴史を振り返ると、⼈の⼿や動物の⼒など、さまざまな運搬⼿法が成されて来た中、⼤量輸送が可能になった貨物輸送の到来は、実に画期的なものであったといえるだろう。

⽇本の近代化を⽀えてきたと⾔っても過⾔ではない貨物輸送の歴史が、このまちには現代に⾄っても、しっかりと残っているのだ。

旧ライジングサン⽯油タンク⾞タンク体

昨年秋、明治時代の産業遺産「⽇本最古の貨⾞タンク体」が貨物鉄道博物館に収蔵された。

これは、⽯川県七尾市の共⽴商事で、かつて油槽として使⽤され、現在まで保管されていたものだ。

貨物鉄道博物館としては、現存最古貨⾞の復元計画にあたり、クラウドファンディングにて⽀援を募る予定だ。

南野さんは、貨⾞の保存活動を通じて、⽇本経済や我々⼈類の⽣活の発展を⽀えてきた貨物鉄道の隠れた功績を讃えると同時に、地球環境保護の観点から再評価を受けている、貨物鉄道の果たす社会的役割を啓発していきたい、と話す。


参考⽂献

・ 三岐鉄道の⾞輌たち −開業からの50 年−(南野哲志・加納俊彦)

・ 貨物鉄道博物館 OFFICIAL GUIDEBOOK 第3版


貨物鉄道博物館

住所:三重県いなべ市⼤安町丹⽣川中1170(三岐鉄道三岐線丹⽣川駅に隣接)

開館時間:午前10:00〜午後4:00

開館⽇:毎⽉第1 ⽇曜⽇(1 ⽉のみ第2⽇曜⽇) ※ その他、臨時に開館することがあります。

WEB


南野哲志さん ⽂献紹介

・ 貨物鉄道博物館 OFFICIAL GUIDEBOOK 第3版 ※三岐線 丹⽣川駅にて購⼊可能

・ 三岐鉄道の⾞輌たち −開業からの50 年−(南野哲志・加納俊彦)※現在は電⼦書籍のみ販売

・ 三岐鉄道開業80周年 徹底解説、三岐鉄道!(平成23 年7⽉23⽇)

【上記書籍は、いなべ市各図書館に収蔵されていますので、図書館にてご覧ください。】


【Credit】

〈取材撮影ご協⼒〉

貨物鉄道博物館 常務理事 南野哲志さん

〈撮影〉

南野哲志さんよりご提供

いなべ市役所 農林商⼯部 商⼯観光課

〈取材〉

グリーンクリエイティブいなべ

取材:令和3 年 4⽉