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プロジェクト

田中義幸さん

ピーッ! いなべのまちに今日も大きな笛の音が鳴り響く。 いなべ市北勢町阿下喜の交差点からほど近い...

28
July
2021
投稿者:事務局

ピーッ! いなべのまちに今日も大きな笛の音が鳴り響く。

いなべ市北勢町阿下喜の交差点からほど近い三差路の横断歩道。朝夕は交通量も多く、車が行き交うとても危険な場所のひとつだ。ここに、小学生・中学生の通学時間、どんな悪天候であっても、4年間1日も休まず立ち続けているのが、ボランティアの田中義幸さんだ。雪の日には、横断歩道の雪かきもするという。
毎朝、子どもたちの顔を見るのが楽しみで、日々子どもたちの安全と、成長を見守っている。

未だに登下校中、小中学生が巻き込まれる交通事故が後を絶たない。子どもの登下校に不安を抱える大人も多い。人の命を一瞬に奪ってしまうかもしれない交通事故。私たちは日々かけがえのない命を理不尽に失う危険と隣り合わせに生きているのだ。

田中さんは阿下喜に生まれ育ち、就職を機に四日市に出て電気工事士として30年以上勤めてきた。何事も諦めず取り組む真面目な性格だ。

そんなある日、脳梗塞で倒れた。一命は取り止めたが、左半身麻痺となり、一時は寝たきりとなった。しかし、作業療法士も音を上げる程の懸命なリハビリで、6ヶ月という早さで体は以前のように日常生活が送れるまで回復。医者から「原因の一つはストレスだから、とにかく家でゆっくり過ごして楽しいことをしていなさい」と言われ、実家の阿下喜に戻り、ゆっくりとした日々を過ごしていた。

ある朝、毎日横断歩道に立つ教頭先生の姿が目に留まる。最初は軽いお手伝いのつもりで声をかけたが、それからあっという間に4年間が経っていた。子どもたちの笑顔や成長していく姿を見ているうちにどんどん楽しくなってやめられなくなっていたそう。最初の頃は挨拶する子も少なかったが、毎日大きな声で挨拶する田中さんの姿を見て、自ら率先して挨拶する子が増え、校長先生からも感謝の言葉をいただいた。

ある日スーパーで買い物をしていると、いつも横断歩道を渡る小学生が、お母さんを連れてきて、「いつも横断歩道でお世話になっているおじさんだよ」と紹介してくれた。続けていてよかったなとしみじみと感じる。

ある寒い冬の日には、寒さに震えている田中さんを見て、小学生の男の子が「僕は半袖に短パンだよ、だからおじさんも大丈夫!」まだまだ子供たちには負けていられないと元気をもらう。田中さんと子どもたちの距離の近さを感じる。

また、田中さんは、消えかけていた横断歩道の補修や暗い通学路の電灯の設置など自ら声をあげた。ヘルメットや合図灯は自前で揃えた。子どもたちを守るためなら、体を張ってでも守る。未来のある子供たちの命は何よりも大切なのだと。

田中さんが横断歩道に立つようになってから、停まったり、速度を落としてくれる車も増えたという。停まってくれた車には頭を下げてお礼を忘れない。

ただ、未だに速度を上げて駆け抜ける車もいる。田中さん自身も何度も危ない場面に遭遇した。

田中さんが取材の帰り際におもむろに立ち上がり、部屋に飾ってあった額縁に指をさして話してくれた。「娘が書いてくれた言葉で今でも大切にしている言葉。健康であることが一番大切だよ」その娘さんは看護師として働いている。改めて命の大切さを感じる言葉だ。

いなべ市内には子どもたちの安全のために頑張っているたくさんのボランティアの方たちがいる。私たちひとりひとりが交通事故を起こさないことはもちろん、不運な事故に遭わないために何ができるか今一度考えたい。

今日も変わらずいなべのまちに子どもたちの元気な声と、田中さんの笛が鳴り響いている。


【Credit】
〈取材撮影ご協力〉田中義幸さん

〈撮影・取材〉グリーンクリエイティブいなべ

〈取材日〉令和3年7月