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「哲学舎という名の美術館」

「誰もが参加できる美術館をつくりたかった」 そう話すのは、山の麓にひっそりと佇む、『哲学舎(てつ...

18
October
2021
投稿者:事務局

「誰もが参加できる美術館をつくりたかった」

そう話すのは、山の麓にひっそりと佇む、『哲学舎(てつがくしゃ)という名の美術館』館長 山田正明さんだ。

美術館のスタッフで、アーティストの二村柚夕子さんや仲間と共に、美術館と、愉快で美しい森までもつくりあげた。

「芸術とは何か」

問われた人は、頭を悩ませるかもしれない。けれど本来「芸術」というものは、そこまで難しくもなく、堅くないのかもしれない。

私たち人間だからこそ創造できる「芸術」とは、一体何なのか。

自分なりの答えを見つけ出すための“ヒント”を、今回の記事で見つけてもらいたい。

ジャズミュージシャンとして活躍していた山田さんは、40歳の時に名古屋で『のん木bar』という飲み屋を立ち上げ、営んでいた。数多くの芸大生やアーティストたちが集い、交流する場で、二村さんは、当時その店の常連客だった。

昔から絵が好きだった山田さんは、「芸術」については特に関心を持っていて、客で来ていたアーティストたちに「芸術とは何か」と、問うては考える日々。

しかし、彼らからの答えは決まって、「作品を見てもらえればわかる」というものばかり……なかなか腑に落ちず、芸術に(まつ)わる本を片っ端から読み、勉強していたある日、山田さんは「芸術の哲学」という一冊の本と出会う。

そこに書かれていたことこそが、山田さん自身が導き出したかった答えそのものだった。

「芸術とは、“つくった人”の生き様や哲学(※1)が含まれるものであり、美術や音楽は、芸術のための表現のひとつである」(※1)真理を探究する知的営み

これが、山田さんなりに導き出した、「芸術とは何か」の答えだった。

そこから山田さんは、その「答え」と共に、芸術の見方や感じ方を自ら伝えるべく、barでギャラリーやワークショップなどを定期的に開催。その後も、歳を重ねる度に、「もっと気軽に誰でも参加できるミュージアムをつくりたい……」という妄想が膨らんでいく。

「素晴らしい芸術も、ただ見てもらうだけでなく、言葉で伝えないと伝わらない……必ず作品には、つくり手の人間性が宿っている。誰もがもっと自由に表現でき、見る人が自由に作品を楽しんでもらえるような場所をつくりたい」

当時は、山田さんが考えるような、誰でも参加できる美術館は日本中、どこにも見つからなかった。

「それなら自分がやるしかない!」。改めて決意し、適地を探し始める。

たまたま、客として来ていた方のご縁で、いなべ市の存在を知り、自然豊かな場所に縁を感じた山田さん。なんと、1年間で50回以上も通い詰めたという。しかし……当時は、市外からの移住者は完全なるよそ者扱い。“やってみたいこと”を理解し、美術館になるような場所を、誰も貸してはくれなかった。

いなべ市外の場所も探すが、なかなかに思うような場所とは出会えず、3年の月日が経ったある日……二村さんが、藤原町のカフェで染めのワークショップを行っていた際、参加者だった方から、元焼肉屋さんだったという今の場所を紹介してもらう。

藤原岳が一望でき、眼下には美しい茶畑が広がるこの場所に一目で惹かれた山田さん。早速、大家さんに交渉したところ、快く貸してくれたという。

「これでやっとスタートできる……!」

改装にあたっては、古材や廃材などを使用した。取り壊しの家があると聞けば、扉などの材を取りに走り、使えるものはなんでも使ったという。

barで知り合った仲間の力も借り、みんなでアイデアを出し合い、コツコツと改装を進め、2005年3月、無事に開館を迎えたのだ。

しかし、そこからが大変だった……開館から数年間、ほとんど地元の来場者は無かったという。

それでも辛抱強く、地元の人と繋がろうと山田さんはコミュニケーションを絶えず取り続けた。

ある時、転機が訪れる。中日新聞の北勢版に取り上げられ、そこからなんと、一気に地元の人の見る目が変わった。

「こんな綺麗な場所だったんだ」

「こんな素敵な場所があるなんて知らなかった」

いなべの人との距離がぐっと縮まった瞬間だった。

美術館内

美術館の会員も名古屋が中心だったが、四日市や桑名、地元の理解者がどんどん増えていったという。

さまざまな芸術作品の展示を中心に、音楽ライブなども開催し、「誰でも参加できる場所」を目指してきた山田さん。今では、20代や30代の若者も多く集まる。

また、山田さんは美術館と並行して、目の前に森をつくった。

その森の名は、『芸術の森マフィー』。message art for yourselfの頭文字を取って付けた。

森をつくりながら、土にアートを散りばめる二村さん

畑と鳥小屋しかなかった赤土の土地は、土の改良からはじめ、今では欅の木が20m以上にも伸びる。

森の中は、さまざまな植物が花を咲かせ、実をつけ、鳥や動物たちが集まるようになった。

「自然から学ぶことは多い」

哲学舎という名の美術館のスタッフであり、アーティストとして活動する二村さんは、朽ち果てた植物や不要になって捨てられた古い道具等をモチーフとして、新たな命を吹き込み、作品をつくり続けている。

「あるようでない森をつくりたかった」、そう話す二村さんの作品が、この森にはいくつも点在する。

芸術を介して人と人が共感でつながり、笑顔になる……そんな場面にこれまで多く立ち会って来た二村さんは、芸術の大切さを何より感じているという。

二村さんは、この森やいなべの自然を舞台に、子ども向けのアートキャンプも開催している。

市外の人が多く参加し、周辺の川で遊んだり、森でキャンプファイヤーをしたり、森の中で芸術に触れる体験も含め、都会で暮らす親子にとっては全てが新鮮で楽しい!と大好評だ。

いなべに暮らす人たちにとっては、ごく当たり前な自然も、外から見れば学びの宝庫なのだという。

最後に山田さんは、自身の考える芸術、そして森(自然)の大切さについて語ってくれた。

「芸術や自然は、五感を通して身体に記憶される。それらをしっかりと意識化することが大切で、そうすることで自身の気づきや行動にもつながっていく。この場が、そんなきっかけとなるように、ボールを投げ続けたい。たとえ全員からそのボールが返ってこなくても。その中のたった一人が返してくれればそれで良い。それが、また次につながっていくと信じて」

帰り際に小さな靴を見つけた。

人の手によって生み出された靴が役目を終え、自然に溶け込むように、植物と一体となる様が儚いようで、とても美しく感じた。

朽ち果てたものや壊れたもの、ゴミになったものやチリになったもの、それらを「宇宙のチリ」というおふたりの発想と手で、また新たなる作品になり、この森で再生されていく。

視点を少し変えるだけで、新たな発見があり、目の前の世界がいつもと違って見えることがある。

この森の中には、そんな発見がいくつも用意されているのだ。

肩の力を抜いて、ぜひ一度、『哲学舎という名の美術館』で、芸術を思いっきり自由に楽しんで欲しい。


【Credit】

〈取材・撮影ご協⼒〉「哲学舎という名の美術館」館長 山田正明さん、スタッフ 二村柚夕子さん

〈撮影・取材〉 グリーンクリエイティブいなべ(一部提供)

〈取材日〉令和3年7⽉


【information】哲学舎という名の美術館

営業時間:10時~16時

休館日:月・火曜日(臨時休館有り)

住所:三重県いなべ市北勢町田辺305-2

入館料:3歳〜未就園児300円

    小中学生500円

    高校生〜大人800円

      (1ドリンク+名古屋クオレ生チョコ付)

電話:0594-72-7867または、090-4185-4188

メールアドレス:mafy@m2.cty-net.ne.jp